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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)658号 決定 1965年2月11日

抗告人 飯島功 外二名

主文

本件各抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告代理人は「原決定を取り消す。本件更生計画はこれを許さない」との裁判を求め、その理由として別紙抗告理由書記載のとおり主張した。

抗告理由第一点について、

会社更生法第二百二十九条は、更生計画の条件は、同じ性質を有する権利を有する者の間(例えば更生担保権者間、更生債権者間)では平等でなければならないことを原則とするが、これらの間に差等を設けても、衡平に反しない場合においては、このかぎりではないと規定している。けだし、その取扱が平等であるかどうかは実質的な観点から決しなければならないものであり、同質的な権利であつても、その権利発生の態様、債権の目的、発生時期、弁済期等に差異があるものであるから、これら権利者の有する個別的理由によりその取扱に差等を設けることが、かえつて、合理的であり且つ衡平に反しないと認められる場合においては、その権利者間に差等を設けることを妨げるものではないとしているのである。

本件更生計画において、一般更生債権者飯島吉蔵を特別利害関係人とし、同人の債権については、確定債権のうち金一四、五六〇、〇〇〇円は新に発行する株式を割当て、弁済に代え、残額は免除を受けることとし、他の一般更生債権者と別異の取扱をなしていることは抗告人主張のとおりである。しかしながら、本件記録中の第二回関係人集会の調書(記録第八三丁)、管財人木村武夫作成の飯島金属工業株式会社更生計画案(同第三三丁)及び同人作成の反撥書と題する書面(同第九五丁)の各記載その他本件記録を検討すれば、本件更生会社である飯島金属工業株式会社は、資本金一〇、〇五六、〇〇〇円の会社であつて、その株式の大部分は同会社の代表取締役である飯島吉蔵及びその一族が所有するいわゆる同族会社であり、本件更生手続開始決定のあつた昭和三十七年十二月二十五日現在における繰越損害が金三九、六〇八、一九四円あり、更生手続開始後の財産評定で、さらに当期純損金として金四八、三三二、〇〇〇円(以上合計金八七、九四〇、一九四円)を計上しており、従つて同会社が現有する設備その他の財産は、債権者の危険において維持されているものとみても過言でなく、しかも右のように会社が破局するに至つたのは、専ら飯島吉蔵の事業経営の拙劣に原因するものであることが十分に認められる。上記のような事情の下において同会社に対する飯島吉蔵の個人債権を他の一般債権者と同列に取扱うことは相当でなく、むしろ上記認定の程度において、劣位に置くことが、合理的であり且つ衡平には反しないものというべきであり、従つて、前掲条項を含む本件更生計画案を認可した原決定は正当であるといわなければならない。なお抗告人は上記のような取扱は破産の場合に比し不公平であると主張するが、本件更生計画は清算を目的とするものではなく、企業の再建維持を目的として立案されたものであり将来会社が再建されて、業績が挙れば債権者にとつても利益をもたらすものであるから、現在においては破産の場合に比し、不利益であつても、それだけを捉えて債権者にとつて不公平であるとは云えない。従つて右主張も失当である。原決定には所論のような会社更生法第二百二十九条に反する違法はないから、抗告人の主張は採用することができない。

同第二点について、

抗告人は本件更生計画案では、一般債権者の権利変更に比し、株主の権利変更が著しく不公平であると主張するが、所論のように、経済的には、株式の一般化に伴つて株式の個人的色彩が失われ、株主は会社の経営に関与することを余り考えずに投資の手段として株式を所有する傾向にあるとは云え、窮境に在る会社の再建を企図する更生手続においては一般債権者は、その会社の株主に比して優位の取扱を受けなければならないことは当然であり、会社更生法第二百二十八条は一般更生債権者を株主より優位に置き、その権利については計画の条件に公正、衡平な差等を設けることを要求しているのである。従つて、本件更生計画案において、一般債権者と株主の権利変更について差等を設けたのは正当であり、その差等が所論のように著しく不公正、不公平であると認めることはできないから、抗告人の主張はその理由がない。

同第三点について、

前掲飯島金属工業株式会社更生計画案、反撥書及び第二回関係人集会調書並びに本件記録編綴の更生会社従業員代表阿部森治作成の上申書の各記載によれば、本件更生会社は既に電気炉設備のため多額の資金(八〇、五二四、五六六円)を投入し、その設備未完成のまゝ放置してあるので、本件更生計画においては、さらにその運転費等として五、〇〇〇万円を計上し、電気鋼塊の製造販売の大手業者である大同製鋼株式会社外数社の経営診断又は指導を得て電気炉を再開し、その建設稼動に必要な技術者も右大手業者より派遣を受け、その稼動によつて業績を挙げ、弁済資金を捻出することを計画しているものであり、相当の根拠を有するものであることが認められ、一方更生会社の従業員一同も同案に賛成し、その実現のために協力且つ努力することを約していることも認めることができる。抗告人は右計画は技術的計画性を欠き机上の空論に過ぎず又電気炉も六百万円程度で完成することが可能であると主張するが、右主張事実を肯認し得る資料はなにもないから、抗告人の本主張も理由がない。

よつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用は抗告人等に負担させて、主文のとおり決定する。

(裁判官 村松俊夫 江尻美雄一 杉山孝)

別紙 抗告の理由

第一点

(一) 本更生計画は一般更生債権について債権者平等の原則に違反し法律違反の扱いをしており会社更生法第二二九条に違反し計画が公正衡平でないから許されるべきでない。本更生計画によると一般更生債権者中飯島吉蔵について之を特別利害関係人として他の一般債権者はほゞ全額の返済が予定されているにも拘らず飯島吉蔵については債権の半額放棄半額株式組入となしている。同じ一般更生債権でこの如き不公平な取扱いは許さるべきものではない。右取扱いは債権者平等の原則に反し法律違反である。特にこの債権二九、四一八、三二三円は直接飯島吉蔵の会社に対する債権ではなく高橋愛次商店に本会社のため連帯保証をした関係上、自己の住んでいた家を明渡して(当時の時価約四千万円)弁済にあてたものゝ求償権であつて債権の性質上高橋愛次商店の債権の譲受と同視すべく同債権と同一の地位に立つものである。仮に一般更生債権と同一の取扱としても何処にも更生計画を害するような支障は起り得ないのである。しかもこの債権について高橋愛次商店より二百万乃至三百万で譲つてくれとの不当に低額なる買取の申出を受けていたものであり飯島吉蔵が之を拒絶するやこのような更生計画をなしてきたものでありこの点不明朗である。

(二) 殊に本件会社の資産及負債の比率を見るに現在の資産は

固定資産     約 114,000,000

建設仮勘定(建物)   35,000,000

資産 土地約10,000坪 240,000,000

借地権(所有権の半額) 75,000,000

流動資産        21,000,000

合計         485,000,000

負債合計       273,000,000

差引         212,000,000

である。若し破産手続に移行した場合においてその処分価額を見積つても

固定資産     約  57,000,000

建設仮勘定       20,000,000

土地         160,000,000

借地権         50,000,000

流動資産        21,000,000

合計         308,000,000

となる。従つて、飯島末子の有する債権は他の債権者と均しくその全額を回収が出来る筈であるし、又株主も亦その持株全部について残余財産の分配を受けられるのである(資産の右評価額については疎明資料を追加する)。破産に移行した場合においても尚これだけの配分が可能なるに拘らず本更生計画の如く飯島吉蔵分の債権について特別利害関係人として不当に不利益なる取扱を受ける理由は全然存在しない。

第二点

本件更生計画は株主につき著しい不公平な取扱をなしている。会社の資金の導入方法を検討して見るに対内的に株を持つて貰う方法及び債権をして他より借り入れる方法が考えられる。ところで株式の一般化に伴つて株式の個人的色彩が失われ株主は会社の経営を考えずに投資の手段をしている傾向があり株主の地位と債権者の地位とが同一になつてきたのである。このよりな傾向にあるにも拘らず本計画では単に負債会社という理由により株式を十分の一に減縮し他の債権者はほゞ全額の支払を受けるという不公平な扱いをなしている。これは明らかに会社更生法第一条の債権者、株主の利益を公平に調整するという目的にも反している。しかもこの計画によると更生手続終了の十年後にこの会社更生法により他の債権者に対する弁済がなされた後においても殆んど株主としての地位を保てない(全体の二十分の一になる)。これでは会社更生法の名を借りての会社の乗取りに他ならずこのような計画が許さるべきでない。第一点の(ニ)の数額が示すように株主も亦充分保護されねばならず、例えば新株引受権を贈与されて然るべきである。特に会社の名称を変更し累積投票を禁止していること、旧株主について全然取締役を出していない点を見るとこの感を深くするのである。株主と債権者との間に公平妥当な線において会社更生計画を立てゝいたゞきたい。即ち、更生計画をもう少し長期間にして全債権の弁済をなして株主に会社を戻してくれるか、現在の株主の会社経営可能数迄の株式の減少にして貰いたいのである。

第三点

(一) 本更生計画は技術的計画性を欠き机上の空論にすぎないものである遂行不可能である。

本会社の如き生産会社においては更生計画を立てるに当つては技術面を如何にするかゞ大きな問題である。

すでにこの点について申立人は更生計画案の出る相当前に上申書を出し充分に注意を喚起していたのである。ところで本計画を見る前の考えをかえず五千万円の資金を投じて電気炉を作りこの働きにより返済せんとしているのである。しかしこの電気炉は六〇〇万円程度出せば完成は可能なのである。この点管財人は十分に調査をせずに業者の一方的言を信用して無謀とも言うべき計画を立てゝいるのである。管財人の説明によれば同六十二坪程度の工場の増設拡張をなし(これに二千万円必要)機械設備電気炉の完成に二千万円、損失見込金一千万円としている。このような金が何故必要なのか疑問である。特に更生会社においては資金の投入について慎重でなければならないにも拘らず更に六十坪余の増築をなす(之は絶体不必要であると考える)と言つており六〇〇万円でよいものを二千万円も計上しているし損金を予め計上している。設備の発注を受ける会社は多額であればあるだけ利益を見込めるのでこのような計画を進言するのであろう。又、管財人は他から資金を借り入れてこの電気炉を作るというが更生計画についてこのような無責任な借金政策は許さるべきでない(現在の経済不況について借金政策による設備投資の過剰及びその設備による生産過剰、ダンピングの点が指摘されている)。この返済はどの様にしてなすか非常に疑問である。資金の借り入れをなせばそれだけ更生会社の債務弁済が遅れるのである。

(二) 又、更にこの電気炉は動かすのが全部商事会社の幹部である。技術者は他より雇い入れて又これを賃貸してと管財人が説明しているが電気炉は非常に危険であつて高度の技術を要するものであり一回の失敗で八千万円の設備が全部だめになつてしまう。この責任を誰が負うか。又電気炉の操作の一回の失敗から三十万円の損失を出すのである。従つて相当な責任技術者の居る場合のみこの電気炉の建設は許さるべきものであつて責任者のいない本件の場合はむしろこの建設をなさず更生計画をなすべきである(大企業の電気炉の発展は更に大きく到底対抗し得なくなると考えられる)。この技術的計画をいゝかげんなものにすれば投資したゞけ損をなし、利益を出すことがむしろ困難になるのではないかとの疑問が大きいのである。

(三) 更に電気炉の設置が果して更生計画に言うが如き利益が出るか疑問である。すでに日本の大企業の電気炉の設備は世界にほこるべき技術的水準に至り、コストも非常に安いものである。この如き現況において旧式の電気炉を建設して大企業との競争に対抗してゆけるか疑問である。本更生会社の如き特色のない会社では現在の技術的水準を考えて今後十年の計画を立てこれにより返済計画を立てること自体無謀というべきである。

この点においてむしろ電気炉の建設をせずに弁済計画を立てるべきであると思われる。

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